花組芝居
奥女中たち
作・演出・出演 加納幸和
出演 原川浩明/佐藤誓/他
ザ・スズナリ
11月15日まで
●葦葉克馬
劇場に入ると、金張りの壁で囲まれた大奥の豪華なセットが現れる。花組芝居 が舞台美術に凝るのは毎度の事だが、それでも客席までセットで覆ってあったの には驚いた。さながら劇場自体が大奥の中といった感じで、今回の公演に対する 意気込みが伝わってくる。確かに「奥女中たち」は、トータルな意味でかなり力 の入った公演である。
「奥女中たち」は、河竹黙阿弥の「加賀見山再岩藤」とジャン・ジュネの「女 中たち」をベースにした花組芝居の旗揚げ公演「ザ・隅田川」の後日談という仕 掛け。奥女中の岩藤と尾上が大奥の権力闘争を演じているというのが前作の主な 粗筋で、尾上は岩藤から草履打ちの辱めを受けた上にいびり殺され、その岩藤も 尾上の召し使いのお初に敵を討たれてしまう。そのお初が二代目の尾上(北沢洋) となり、しかも上様(溝口健二)の手がつき、権勢を誇るようになっているとい うのが、「奥女中たち」の舞台背景だ。大奥の年寄り女中(広田豹)らも、眉を ひそめるような振る舞いが多くなり、ついには正室の梅の方(水下きよし)をも 蔑ろにするようになる。一方、そんな権力闘争とは別に、女主人と召し使いとい う関係を演じるという鬱屈したゴッコに興じ続けているのが、尾上の召し使いの ふたり(原川浩明、佐藤誓)だ。ふたりに目を付け、尾上殺しをそそのかす年寄 りは、まず手始めに、尾上によって殺された岩藤を、墓場から甦らせる方法をふ たりに授けるのだった…。
この後の場である、岩藤の骨寄せが、やはり最大の見どころだ。猿之助のよう に宙乗りまでは見せないものの、仕掛けの面白さで勝負してくれる。そして一転、 甦った岩藤(加納幸和)が、華やかに(?)「藤娘」を踊るという倒錯した演出 で、観客を煙に巻くあたりは、「いよ、二子玉屋(にこたまや、加納の屋号)」 と声を掛けて上げたくなるほど。さらに、尾上による、梅の方へのいびりや、ふ たりの対決の場に登場して再び尾上を草履打ちにする岩藤の業の深さなど等、火 薬や火を使ったマジックもどきの仕掛けも随所に散りばめて、見どころの連続と した辺りには、凄味さえ感じることができる。
その代わり、尾上をうまく殺すことができなかった召し使いのふたりを主軸に した“女中たち”の場面に移ると、とたんにトーンダウンしてしまう。歌舞伎的 な手法が使えない時に、どう見せるかという課題はまだ解決していない。また、 脚本的には継ぎはぎ的な作品で、正直に言えば、ふたつの作品が拮抗するという よりも、互いの名場面を集めたという感じがするのが残念だ。例えば、「忠臣蔵」 と「四谷怪談」のように、大所的なタテの糸と、個的なヨコの糸がうまく絡まっ ていくような面白さは残念ながらない。しかし、見どころをきっちりと見せると いうのも歌舞伎を追及する花組らしいところ。それぞれのシーンをたっぷりと見 せてくれて、楽しめる作品に仕上がっているのは間違いない。 (92年10月30日ソワレ、2h)
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