上杉祥三プロデュース
BROKEN(暴君)四谷怪談

作・演出・出演 上杉祥三
出演 段田安則/西山水木他
本多劇場
7月30日まで

●柿おとし

「四谷怪談」と言えば、韓日フェスティバルで上演された「東海道四谷怪談」 を思い出す。その時に感じたのは同作が、けっしてお岩と伊右衛門だけの物語じゃ ないという事だった。もちろん「忠臣蔵」の裏物語という側面もあるのだが、さ らに吉良家の家臣伊藤喜兵衛の娘お梅の強引な横恋慕やお岩の妹お袖とその夫で 主人浅野内匠頭の仇討ちのために奔走する佐藤与茂七、そしてその使用人の直助 との三角関係まで絡み、複雑な人間関係が生んだ悲劇としての怪談の姿が浮かん できたわけだ。今回の「BROKEN(暴君)四谷怪談」もそういった脇筋を大 事にした脚本になっていたのが、まずうれしかった。上杉祥三プロデュースの第 1弾である「赤穂浪士」の時は上杉が柄に合わない少年役をやるという企画の失 敗を指摘したわけだが、これが女たらしで悪党の民谷伊右衛門を演じると実にぴっ たりくるから不思議だ。上杉自身による脚色も先に書いたようにオリジナルを大 分意識したものになっている一方で、現代の若いカップルとしてのお岩と伊右衛 門を登場させるなど、大胆なところも見せる。発見の会が主体になった「東海道 四谷怪談」ほどの雑多なエネルギーは感じなかったが、仇討ちのために犬死にす るよりも生きる楽しさを追及しようとした伊右衛門像というのは新鮮な視点だ。 しかも時代劇、怪談という劇の形式をかなり真面目に追及していて、奈落などを ふんだんに使った仕掛けも十分に恐がらせてくれる。配役も段田安則と西山水木 (EDメタリックシアター)が加わって、かなり締まった。特に元電劇コンビの 西山と浅野和之が絡んだ場面は篠崎光正仕込みのストロボ演技が、松の廊下(浅 野内匠頭=西山、吉良上野之介=浅野)や仏壇返し(直助=浅野が亡霊となった お岩に仏壇の中に吸い込まれる)で生きて、久々に芸の世界を見た思いがした。 段田も押し出しのいい大石内蔵助と軽妙な按摩宅悦のふた役で大活躍する。歌舞 伎でも名場面として知られるお岩の髪すきの場面では、段田がいなければ成立し ないような気にもなる。ただ上杉と演出協力の久世龍之介(チラシで脚本担当に なっていた文学座の石川耕士がやるのかなと思っていたが、直前になってバトン タッチされたようだ。ついでに脚本も上杉自身のプラン通りとなり、脚本からも 石川の名前が消えている)の演出は軽妙酒脱ではあるが、情感が足りないのが玉 にキズ。自分の趣味かも知れないが、先のお岩の髪すきやお袖と直助の場面はもっ としっとりとしていた方がいい。とにかく上杉祥三プロデュースの第1弾に比べ れば、拾い物の1作となった。(89年7月13日ソワレ、2h+休憩10)


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